
今回はゲーテの戯曲『ファウスト』を読むための本を、訳者と出版社のちがいを軸に紹介していくよ! マンガ・読みやすい現代語訳・伝統的な名訳・解説書という4つの入口に分けて並べてあるから、自分の目的に近いところから選べばOK。迷ったらまず、読みやすい現代語訳を1冊。そこから好みの訳を探しにいくのがいちばん失敗が少ないよ。
「ファウスト」で検索すると、上のほうに出てくるのはゲームのキャラクター紹介ばかり——そんな経験をした人もいるかもしれません。
実はこの名前のもとになっているのは、ドイツの詩人ゲーテが書いた同名の戯曲です。悪魔に魂を売った学者の物語として、世界文学の代表作のひとつに数えられています。
そしてもうひとつ。『ファウスト』は「読み始めたけれど挫折した」という声がとても多い作品でもあります。ところが、その原因の大半は作品そのものではありません。
原因はたいてい、最初に手に取った訳が自分に合っていなかったことにあります。訳を変えただけで最後まで読めた、という話はめずらしくないのです。
この記事では、マンガ・読みやすい現代語訳・伝統的な名訳・解説書という4つの入口に分けて、目的別におすすめの本を紹介していきます。
『ファウスト』(ゲーテ)とは?
①『ファウスト』は、ドイツの詩人ゲーテが生涯をかけて書き上げた二部構成の戯曲。学問に絶望した老学者が、悪魔と契約を結ぶ物語です。
②「もっと知りたい」という人間の欲望を正面から描いた作品として、いまも世界中で読み継がれています。
③日本語訳は10種類以上あり、どの訳を選ぶかで読みやすさが大きく変わります。最初の1冊は、読みやすい現代語訳から選ぶのが無難です。
『ファウスト』を書いたヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、1749年、神聖ローマ帝国の自由都市だったフランクフルトに生まれ、1832年にワイマールで亡くなりました。
まだ「ドイツ」という統一国家は存在せず、大小の領邦がひしめいていた時代です。ゲーテが生きた前後のドイツがどう動いていたかは、ドイツの歴史をあわせて読むとつかみやすくなります。
ゲーテがこの作品の最初の草稿に手をつけたのは1770年代前半、まだ20代のころでした。第二部を書き終えたのは1831年、亡くなる前年のことです。1770年代前半から1831年まで、およそ60年をかけて書き継がれた、まさに生涯の仕事でした。
第一部が出版されたのは1808年。第二部が世に出たのは、ゲーテが亡くなったあとのことでした。
そもそも「ファウスト」という名前は、ゲーテの創作ではありません。15世紀末から16世紀前半のドイツに、ゲオルギウス・ファウストゥスと名乗る遍歴の学者がいたと伝えられ、悪魔と契約して魔術を使ったといううわさが各地に残されました。
ただし、この人物の生没年や経歴を裏づける史料はきわめて乏しく、実在の姿については諸説あります。確かなのは、そのうわさ話が語り継がれた時代のほうです。
ちょうど宗教改革が始まり、マルティン・ルターが教会のあり方を問い直していたころにあたります。ヨーロッパ全体ではルネサンスの気運がアルプスを越えて北へ広がりつつあった時期でもありました。
信仰が揺らぎ、人間の知の力が急に大きく見えはじめた時代。「知を求めすぎた男が悪魔に魂を渡す」という話が受けたのは、そういう空気があったからだと考えられています。
ゲーテの戯曲は、その伝説を下敷きにしています。物語は、あらゆる学問を修めながら「結局なにひとつわかっていない」と絶望した老学者ファウストのもとに、悪魔メフィストフェレスが現れるところから動き出します。
この世のあらゆる快楽を味わわせてやろう、そのかわり、おまえが「時よ止まれ、おまえは美しい」と口にしたら魂をもらう——ふたりはそんな賭けを結びます。
第一部では、若返ったファウストが少女グレートヒェンと出会い、その恋がやがて取り返しのつかない悲劇へ転がっていきます。第二部になると舞台は古代ギリシャや皇帝の宮廷にまで広がり、話のスケールは一気に大きくなります。
そしていまも読まれ続けている理由は、この主題が古びないからです。「もっと知りたい」「もっと先へ行きたい」という欲望は人を高めもするし、踏み外させもする——その両面が、賭けというかたちで最後まで描き切られています。
日本でも1913年に森鴎外が初の全訳を出して以来、相良守峯、高橋義孝、手塚富雄、池内紀と、10人以上の訳者がこの作品に挑んできました。これだけの翻訳が並ぶこと自体が、この戯曲の底の深さを物語っています。

つまり『ファウスト』は、話の中身が難しいというより「どの日本語で読むか」で難易度が決まる作品なんだ。森鴎外の明治の訳と池内紀の新訳じゃ、同じ場面でも読み心地がまるで別物だからね。だから本で深掘りする価値があるんだよ。ここからは目的別に紹介していくよ!

課題の読書感想文で『ファウスト』を選んじゃったんだけど、文庫を開いたら全部セリフだし、しかも上下巻…。どこから手をつければいいの?

その戸惑いは正しいよ。『ファウスト』は戯曲——つまり舞台で上演するために書かれた作品だから、説明の地の文がなくて場面がいきなり切り替わるんだ。だからまずマンガ版で「誰が何をした話なのか」を先につかんでおくといい。あらすじさえ頭に入っていれば、文庫を開いても迷子にならないよ。次の章でそのマンガ版から紹介するね。

海外ドラマや教養書で名前だけは何度も見かけるのに、中身はまったく知らないままで…。通勤中にAudibleで聴いたりもできるのかしら?

聴くという手もあるよ。ただ、Kindle UnlimitedやAudibleの対象になるかどうかは本ごとに違うし、時期によって入れ替わることもあるんだ。この記事で紹介する本がどのサービスで読めるかは、記事のいちばん最後の比較表にまとめておくね。
マンガで読む
『ファウスト』でつまずく人の多くは、内容ではなく形式に戸惑っています。戯曲はセリフとト書きだけで進むので、場面転換の合図が薄く、「いま誰がどこにいるのか」を見失いやすいのです。
そこで効くのがマンガ版です。絵になっていれば人物と場所が一目でわかり、第一部から第二部までの流れを数時間で通せます。
あらすじが頭に入った状態で文庫を開くと、同じ本とは思えないほど読み進めやすくなります。活字の量に尻込みしている人にとって、いちばんハードルの低い入口です。

まずはこの1冊。マンガなら、休み時間や電車の中でも読み切れるよ。
初めて『ファウスト』に触れる人、読書感想文や課題で短時間にあらすじをつかみたい人におすすめです。絵になっているので人物と場面が一目でわかります。
原文の言葉づかいや詩としての味わいを求める人には物足りません。あらすじをつかんだあとは、次の章で紹介する文庫の訳に進んでみてください。
読みやすい現代語訳で読む
全体の流れがつかめたら、次は本文を通して読んでみましょう。ここで紹介するのは、現代の日本語に置き換えられた読みやすい訳です。
買う前にひとつだけ知っておいてください。岩波・新潮・中公・集英社のいずれも、第一部と第二部が別売の分冊です。まずは第一部だけを買って、合うと感じたら第二部へ進むのがおすすめです。
『ファウスト』の原文は韻文——つまり韻を踏んだ詩の形式で書かれています。それを日本語にするとき、リズムを優先するか、意味の通りやすさを優先するかで、訳の顔つきはがらりと変わります。
初めて通読するなら、迷わず意味の通りやすさを取ってください。文庫の最初の数ページを読み比べて、声に出して引っかからないものを選ぶのがいちばん確実です。

訳者が違うだけで、そんなに読みやすさって変わるものなの?

変わるよ。詩を訳すのって、外国語の歌詞を日本語で歌えるようにするのに近いんだ。原文の響きを残そうとすれば言葉が古めかしくなるし、意味を優先すれば説明っぽくなる。どっちが正解ってわけじゃなくて、読む人の目的で選ぶものなんだよ。
初めて通読する人、詩の形式にこだわらずまず物語を追いたい人におすすめです。原文の韻文を散文的に訳しているため、意味がすっと頭に入ってきます。
原文が詩であることの手ざわりをしっかり味わいたい人には、この記事の次の章で紹介する伝統的な名訳のほうが向いています。
訳の格式と解説の厚みを両方重視したい人におすすめです。この翻訳で手塚富雄は読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞しており、長く定訳として読み継がれています。
とにかく手っ取り早く読み切りたい人には、語り口がやや重厚に感じられるかもしれません。
3冊のなかでは中間的な口語訳で、池内紀訳ほど砕けず、手塚富雄訳ほど重厚でもありません。図書館や学校の書架でよく見かける定番の訳をまず試したい人におすすめです。新潮文庫の2分冊なので、前半だけ手に取ることもできます。
より新しい時代の訳文を求める人には、この章の最初に紹介した池内紀訳(2004年)のほうが向いています。
定番の名訳・格調高い訳文で読む
一度あらすじを知ったうえで読み返すなら、長く定訳とされてきた訳にも触れてみてください。同じ口語訳でも、原文の詩のかたちをどれだけ残すかで手ざわりは変わります。この章の2冊は、意味の通りやすさよりも詩の響きを優先した側の訳です。
とくに森鴎外訳は、読みやすさでは新しい訳にかないませんが、原文が詩であることの手ざわりは、こちらのほうがよく伝わるとされます。
とくに森鴎外の訳は、日本語としての語彙の豊かさで長く評価されてきた名訳です。文語訳として紹介されることもありますが、版元の紹介では「曲折自在な口語訳」と位置づけられており、劇の対話そのものは口語で訳されています(文語なのは巻頭の薦むる詞など、献辞にあたる部分です)。ただし語彙も言い回しも明治のものなので、いまの目にはかなり古風に映ります。文豪が文豪を訳した仕事として、それ自体が読み物になっています。

ちなみに森鴎外訳は著作権の保護期間が終わっていて、青空文庫で無料で読めるんだ。買う前に冒頭の場面だけ試してみて、明治の日本語のリズムが自分に合うか確かめてみるのがおすすめだよ。合わなかったら、遠慮なく現代語訳に戻ればいいからね。
明治の格調高い日本語を味わいたい人、まず無料で読んで自分に合うか確かめたい人におすすめです。著作権の保護期間が終わっており、青空文庫でも同じ訳文を無料で読めます。
現代語に慣れた読者には語彙がやや古めかしく感じられます。読みにくいと感じたら、遠慮なく前の章の現代語訳に戻ってください。
格調を保ちながらも、森鴎外訳よりやわらかく整えられた訳文で読みたい人におすすめです。岩波文庫の定番として長く読み継がれています。
現代語訳のようなくだけた語り口を求める人には、この記事前半の現代語訳のほうが向いています。
ゲーテをもっと深く知りたい人へ
『ファウスト』は、読み終わったあとに「結局これはどういう話だったのか」を誰かと話したくなる作品です。とくに第二部は場面がめまぐるしく変わるので、一読しただけでは全体像が結びにくいところがあります。
そこで役に立つのが解説書です。作品が書かれた背景やゲーテ自身の人生を知ると、一度読んだ場面の意味が変わって見えてきます。
読書感想文やレポートで作品を論じたい人にも、この段階の本は強い味方になります。

でも感想文って、結局なにを書けばいいの?あらすじをなぞるだけじゃダメだよね…。

そこで解説書の出番だよ。名場面をひとつ選んで、「なぜこのセリフなのか」を自分の言葉で書けると、一気に読ませる感想文になるんだ。全部を語ろうとしなくていいんだよ!
一度読んだ『ファウスト』の名場面をあらためて読み解きたい人、読書感想文やレポートで作品を論じたい人におすすめです。ドイツ文学者による対訳と解説で、名場面を抜粋して構成されています。
これから初めて全文を読もうとしている人には、まず前の章で紹介した現代語訳を先に読み終えることをおすすめします。
作品の背景よりもゲーテ本人の人柄や考え方に関心がある人におすすめです。若き詩人エッカーマンが晩年のゲーテのそばで交わした対話を、山下肇の訳文で読めます。
『ファウスト』の内容そのものを深掘りしたい人には、この章の最初に紹介した柴田翔の解説書のほうが直接的です。
まとめ
最後に、ここまで紹介した本を1つの表にまとめておきます。難易度と、Kindle UnlimitedやAudibleの対象かどうかを並べているので、迷ったときの最終確認に使ってください。
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| 📚 タイトル | 難易度 | Kindle Unlimited | Audible | こんな人向け |
|---|---|---|---|---|
| ①ファウスト ─まんがで読破─(イースト・プレス) Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | ✓ | ✕ | あらすじを数時間でつかみたい人 |
| ②新訳決定版 ファウスト 第一部(集英社文庫・池内紀訳) Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | 散文調でとにかく読みやすさ重視の人 |
| ③ファウスト 悲劇第一部(中公文庫・手塚富雄訳) Amazon楽天 |
●●○ 中級者 | △ | ✕ | 訳の格式・解説の厚みも重視する人 |
| ④ファウスト(一)(新潮文庫・高橋義孝訳) Amazon楽天 |
●●○ 中級者 | △ | ✕ | まず定番の訳を試したい人 |
| ⑤ファウスト 第1部(岩波文庫・森鴎外訳) Amazon楽天 |
●●● 上級者 | △ | ✕ | 青空文庫で無料の名訳に触れたい人 |
| ⑥ファウスト 1(岩波文庫・相良守峯訳) Amazon楽天 |
●●○ 中級者 | △ | ✕ | 格調と読みやすさを両立したい人 |
| ⑦「ファウスト第1部」を読む(白水社・柴田翔) Amazon楽天 |
●●○ 中級者 | △ | ✕ | 読了後に名場面を読み解きたい人 |
| ⑧ゲーテとの対話 上(岩波文庫・エッカーマン) Amazon楽天 |
●●○ 中級者 | △ | ✕ | ゲーテ自身の人柄に迫りたい人 |
✓=対象であることを確認、△=対象かどうか確認できなかったため各商品ページでご確認ください、✕=この訳による朗読版はAudibleで確認できませんでした(2026年9月確認)。まんがで読破シリーズはKindle Unlimitedの読み放題対象として複数のサイトで確認できました。なお、ここで紹介した各訳文とは別に、朗読向けにアレンジした『ファウスト』のAudible版(こどものための聴く名作シリーズなど)は配信されています。対象は時期により変動するため、最新の状況は各商品ページでご確認ください。

以上、ゲーテ『ファウスト』のおすすめ本まとめでした。しつこいようだけど、この作品は訳選びさえ間違えなければ驚くほどすらすら読めるよ。まずは気になった1冊を手に取ってみてね。読むより聴くほうが続きそうな人は、Audibleの無料体験から入るのもアリだよ。下の記事もあわせて読んでみてください!
Wikipedia日本語版「ファウスト(ゲーテ)」「ヨハン・ファウスト」(2026年9月確認)
Wikipedia日本語版「ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ」・英語版「Goethe’s Faust」(2026年9月確認)
コトバンク「ファウスト」「手塚富雄」「相良守峯」(デジタル大辞泉・日本大百科全書・日本人名大辞典)(2026年9月確認)
岩波書店・新潮社・中央公論新社・集英社・白水社・筑摩書房の各公式書誌ページ、青空文庫「ファウスト」(ゲーテ作・森鴎外訳)(2026年9月確認)
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