
今回はシェイクスピア『ハムレット』を読むための本を、目的別に紹介していくよ! マンガ・読みやすい現代語訳・定番の格調高い訳・作品を深く知る解説書の順に並べてあるから、自分に合いそうな入口から選べばOK。迷ったらまずマンガ版か、読みやすい現代語訳を1冊。そこさえ通れば、シェイクスピア作品でもっとも長いとされるこの戯曲も、ちゃんと最後までたどり着けるよ。
『ハムレット』といえば、「生きるべきか死ぬべきか」の一節だけは誰もが知っているのに、通して読んだ人は意外と少ない——そんな作品の代表格です。長いうえにセリフが古めかしく、途中で投げ出しても仕方のない古典悲劇、というイメージを持たれがちです。
ですが実は、『ハムレット』で挫折する原因の多くは、物語そのものの難しさではありません。つまずく人の大半は、自分に合わない訳から入ってしまったという一点で脱落しています。
日本語で読める『ハムレット』には、舞台のセリフとして磨かれた格調高い訳から、いまの言葉づかいに寄せた読みやすい訳、さらにはマンガ版まで、いくつもの入口が用意されています。この記事では、その入口を目的別に整理して紹介していきましょう。
『ハムレット』とは?
- 『ハムレット』は、イングランドの劇作家シェイクスピアが書いた四大悲劇の一つで、デンマークの王子を主人公とする戯曲
- 父王を殺したのは叔父だと亡霊から告げられた王子が、復讐をためらううちに破滅へ向かっていく物語
- 日本語訳は何種類もあり、マンガ・読みやすい現代語訳・定番の訳・解説書から自分に合う入口を選べば読み切れる
『ハムレット』は、16世紀から17世紀にかけてイングランドで活躍した劇作家シェイクスピアの戯曲です。1564年に生まれ、1616年に亡くなったこの作家は、生涯におよそ37の戯曲を残したとされています。
なかでも『ハムレット』『マクベス』『オセロー』『リア王』の4作は「四大悲劇」と呼ばれ、いまも世界じゅうで上演され続けています。書かれたのは1600年前後とされますが、正確な執筆年や初演の年ははっきりしておらず、研究者のあいだでも諸説あります。
物語の舞台はデンマークの城です。主人公のハムレットは、父である王を突然亡くしたばかりの王子でした。ところが母は、夫の弟——つまりハムレットにとっての叔父クローディアスとすぐに再婚し、その叔父が新しい王の座におさまってしまいます。
そこへ父王の亡霊が現れ、「自分は弟に毒殺されたのだ」と告げます。ハムレットは狂気を装いながら真相を探り、叔父への復讐を決意することになります。
ところが彼は、なかなか実行に移せません。ためらい、考え込み、また機会を逃す——その繰り返しのうちに事態は取り返しのつかないところまで転がり落ち、物語は多くの死者を出す結末を迎えます。
有名な「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」という独白は、この逡巡のただ中で語られる言葉です。原文は “To be, or not to be, that is the question” で、この一節をどう日本語にするかは訳者ごとに大きく違います。訳の個性がもっともよく表れる場所としても知られている一節です。
この言葉は単に死を選ぶかどうかを問うたものではなく、このまま黙って耐えるか、行動を起こして果てるかという、ハムレットの生き方そのものへの問いとして読まれてきました。決断できないまま時間だけが過ぎていく感覚は、現代の私たちにも覚えのあるものではないでしょうか。
この戯曲が生まれたのは、ロンドンに常設の劇場が次々と建てられた時期にあたります。シェイクスピアの属した劇団が本拠地としたグローブ座もその一つで、1599年に建てられたとされています。
当時の劇場は、立ち見の庶民から良い席に座る貴族までが同じ舞台を見上げる、いまでいう映画館のような娯楽の場でした。イタリアから広がったルネサンスの波がイングランドにも届き、古典の教養と庶民の娯楽が混ざり合ったことで、この時期の演劇は一気に花開いたのです。

授業の課題で『ハムレット』を読むことになったんだけど、本屋に行ったら同じタイトルの文庫が何種類も並んでてびっくりした…。どれを選べばいいの?

そこが最初の分かれ道なんだよ。『ハムレット』は著作権が切れているから、いろんな訳者が日本語にしているんだ。同じセリフでも訳によって手触りがぜんぜん違う。だから「どの本を買うか」より先に「どの訳で読むか」を決めたほうがいいよ。

私は舞台や映画で名前だけは知ってるんだけど、中身はちゃんと読んだことがなくて…。教養として読むなら、やっぱり由緒ある訳のほうがいいのかしら?

目的しだいだね。あらすじと人物関係を先につかみたいならマンガや解説書からでいいし、舞台を観る予定があるなら、実際に上演で使われてきた訳を選ぶと当日の楽しみ方が変わるよ。「正解の1冊」じゃなくて「いまの自分に合う1冊」を選ぶのがコツ。

ということで、ここからは入口を4つに分けて紹介していくね。①マンガでつかむ ②読みやすい現代語訳 ③定番の格調高い訳 ④解説書で深める、の順。下へ行くほどハードルが上がる並びだから、自分がいるところから読んでみて!
マンガで読む
まず全体像をつかみたい人には、マンガ版が近道になります。『ハムレット』は登場人物の関係が入り組んでいて、王・王妃・叔父・王子・侍従長の一家といった顔ぶれを頭に入れる前に脱落してしまう人が少なくありません。
絵で読めば、誰が誰の親で、誰が敵なのかが一目でわかります。名作をマンガ化したシリーズはいくつも刊行されており、『ハムレット』もそのラインナップに入っています。
1〜2時間もあれば結末まで通せるので、課題の下読みにも、舞台や映画を観る前の予習にも向いています。ここで人物相関がわかっていれば、あとから文章で読み直したときの理解度がまるで違ってきます。

マンガで読んだだけって、なんかズルしてる感じがしない…?

ぜんぜんズルじゃないよ。もともと『ハムレット』は、読むためじゃなくて劇場で観てもらうために書かれた台本なんだ。先に筋を知ってからセリフを味わうのは、むしろ当時のお客さんに近い順番とも言える。話の先がわかっていたほうが、一つひとつのセリフの重さもよく伝わるよ。
日本文芸社「マンガで読む名作」シリーズの一冊です。ブロン園田による作画で、大きなコマ割りと表情豊かな絵で原作のあらすじを追える構成になっています。王・王妃・叔父・王子といった人物関係を、まず視覚で頭に入れたい人に向いています。
登場人物の名前と顔が一致しないまま読み進めるのがつらい人。まず1〜2時間で全体の流れをつかみたい人。
原作のセリフ回しそのものを味わいたい人。コマ運びよりも文章のリズムを重視したい人。
イースト・プレス「まんがで読破」シリーズの一冊です。バラエティ・アートワークスによる作画で、原作のセリフ回しをできるだけ活かしながら1冊にまとめた構成になっています。同シリーズは世界の古典・名著を幅広く扱っています。
マンガでも原作のセリフの雰囲気をできるだけ残して読みたい人。ほかの「まんがで読破」作品も合わせて読みたい人。
とにかく最短時間で結末だけ知りたい人(①のほうがよりコンパクトです)。
読みやすい現代語訳で読む
筋がつかめたら、次は文章で通して読む番です。いま「読みやすい」と評価されることが多いのは、河合祥一郎訳(角川文庫)と松岡和子訳(ちくま文庫)の2つでしょう。
河合祥一郎訳は、原文のもつ詩のリズムを日本語でも再現することを重視した訳とされ、声に出して読めるテンポのよさが特徴です。シェイクスピア研究者による訳でありながら、注に頼らずどんどん読み進められます。
松岡和子訳は、シェイクスピア全戯曲の個人訳という大きな仕事の一部で、現在のスタンダードの一つとされています。脚注や解説が手厚いため、背景まで確認しながら読みたい人に向いているでしょう。
どちらも「いまの日本語」で書かれているので、古典に慣れていなくても文がつっかえません。はじめて『ハムレット』を通読するなら、この2つのどちらかを選んでおけば大きく外すことはないはずです。

同じ作品なのに、訳でそんなに変わるものなの?

変わるよ。あの「生きるべきか死ぬべきか」も、短く鋭く訳す人もいれば、もっと長い言い回しにする人もいる。戯曲は声に出すために書かれた文章だから、訳者がどんな話し方を思い描いたかで、作品の印象がまるごと変わっちゃうんだ。
角川文庫『新訳 ハムレット 増補改訂版』。原文の韻とリズムを日本語でも再現することを目指した訳で、狂言師・演出家の野村萬斎の依頼を受けて生まれ、萬斎が一行ずつ声に出して読み上げながら鍛えられたと訳者あとがきに記されています。2024年刊行の増補改訂版では原文の脚韻(ライム)まで訳し出したとされ、注に頼らず声に出して読み進めやすい構成です。
声に出して読んだときのリズムのよさを大事にしたい人。舞台やドラマ的な緊張感を味わいたい人。
脚注で背景知識を随時確認しながら読みたい人(④のほうが解説は手厚めです)。
ちくま文庫『ハムレット――シェイクスピア全集(1)』。松岡和子によるシェイクスピア全戯曲個人訳の第一弾で、脚注・解説が手厚く、現在のスタンダードの一つとされています。背景を確認しながら読み進めたい人に向いています。
訳注や解説を確認しながらじっくり読み進めたい人。シェイクスピアの他の戯曲も続けて読んでみたい人。
とにかくテンポよく一気に読み切りたい人。
定番・格調高い訳で読む
言葉の格調や含みを味わいたい人には、長く読み継がれてきた訳があります。福田恆存訳(新潮文庫)は戦後を代表する定番として知られ、舞台のセリフとしての力強さが評価されてきました。
ただし語り口はやや硬く、いまの読者には読みづらく感じられるという声もあります。文語調の響きを楽しめる人にはこの上ない訳ですが、初めての1冊としては人を選ぶかもしれません。
小田島雄志訳は、シェイクスピアの全戯曲を一人で訳しきった仕事として知られています。刊行からは時間が経っていますが、口調が軽やかで読みやすいと評価する人も多い訳です。
さらに、野島秀勝訳(岩波文庫)のように、比較的新しく、注釈の詳しさで支持されている訳もあります。同じ場面を訳し比べると、訳者ごとの解釈の違いがはっきり見えてくるのが面白いところです。

先生は「新潮文庫を読んでおけ」って言ってたんだけど、それが正解ってこと?

昔からの定番だから、そうすすめる先生は多いよ。ただ、硬い訳から入って途中で投げ出すくらいなら、読みやすい訳で最後まで行ったほうがずっといい。まずは通読、格調を味わうのは2周目でも遅くないからね。
新潮文庫『ハムレット』。福田恆存による訳は戦後を代表する定番として長く読み継がれ、舞台のセリフとしての力強さが評価されてきました。文語調の響きを味わいたい人に向いていますが、初めての1冊としては人を選ぶ場合もあります。
文語調の格調高い響きを楽しみたい人。舞台で長く使われてきた定番訳に触れたい人。
いまの言葉づかいで負担なく読みたい人(読みやすい現代語訳のほうが向いています)。
白水Uブックス『ハムレット』。小田島雄志によるシェイクスピア全戯曲個人訳の一冊で、刊行から時間は経っていますが、口調が軽やかで読みやすいと評価する人も多い訳です。
口語調でテンポよく読み進めたい人。シェイクスピアの他の戯曲もまとめて読んでみたい人。
最新の注釈研究を確認しながら読みたい人。
岩波文庫『ハムレット』。野島秀勝による訳で、比較的新しく、注釈の詳しさで支持されています。同じ場面を他の訳と比べ読みする楽しみ方もできます。
注釈を読みながら言葉の背景までじっくり確認したい人。訳の解釈の違いを比べ読みしたい人。
注に頼らずさらっと通読したい人。
解説書で深める
物語を読み終えると、今度は「なぜハムレットはあれほどためらったのか」「あの独白は結局どういう意味だったのか」が気になってきます。そこを引き受けてくれるのが解説書です。
たとえばNHKの「100分de名著」シリーズには『ハムレット』を取り上げた巻があり、河合祥一郎が解説を担当しています。読みどころが短く整理されているので、通読後の復習にも、読む前の下地作りにも使えます。
あわせて知っておきたいのが、この作品が置かれていた場所です。『ハムレット』は書物として読まれるより先に、劇場でお金を取って上演される商品でした。当時の劇場は立ち見なら1ペニーほどで入れたと言われ、職人も商人も貴族も、同じ舞台を見上げていたそうです。
作者本人に当時のことを語ってもらうとしたら、こんなところでしょうか。

わたしの舞台には、仕事帰りの職人も、着飾った貴族も同じように詰めかけてきた。難しい理屈を並べるより、まず客を飽きさせないこと。亡霊も、決闘も、下品な冗談も入れておいたのは、そういう理由さ。
難解な古典というより、当時としては最先端の大衆娯楽だった——そう考えると、この戯曲はぐっと身近になります。解説書は、その空気ごと作品を渡してくれる案内役です。
ちなみにシェイクスピアは、『ハムレット』とほぼ同じころ、古代ローマを舞台にした史劇『ジュリアス・シーザー』も書いたとされています。主人公は、ローマ共和政の終わりを決定づけたユリウス・カエサルその人です。作者の関心が、悲劇だけでなく歴史そのものにも向いていたことがうかがえます。
日本で同じように芝居の台本を書いて名を残した人物といえば、『曽根崎心中』などで知られる近松門左衛門でしょう。近松が生まれたのは1653年で、シェイクスピアが亡くなった1616年から37年後にあたります。シェイクスピアの死からおよそ1世紀のあいだに、海をはさんだ2つの国で「芝居の脚本を書く職業作家」がそれぞれ現れていたことになります。
NHK「100分de名著」ブックス『シェイクスピア ハムレット 悩みを乗り越えて悟りへ』。河合祥一郎による解説書で、読みどころが短く整理されています。通読後の復習にも、読む前の下地作りにも使えます。
通読後に作品全体を整理し直したい人。読む前に背景や見どころを先につかんでおきたい人。
先に物語そのものをじっくり体験したい人(解説が結末や解釈に触れるため、ネタバレを避けたいならあとに読むのがおすすめです)。
まとめ
最後に、ここまで紹介した本を比較表でまとめておきます。難易度と、どんな人に向くかを並べているので、自分の現在地に近いところから選んでみてください。
物語をまったく知らないならマンガ版、文章で通して読みたいなら読みやすい現代語訳、言葉の手触りを味わいたいなら定番の訳、読み終えたあとの整理には解説書、というのが大まかな目安になります。
『ハムレット』は一冊で完結する戯曲なので、長編小説のように何巻もそろえる必要がありません。1冊読み切れば、それで結末までたどり着けます。紙に線を引きながら読むか、電子で持ち歩くかは好みで決めて大丈夫です。
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| 📚 タイトル | 難易度 | Kindle Unlimited | Audible | こんな人向け |
|---|---|---|---|---|
| ①ハムレット (マンガで読む名作) Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | まず筋を最短でつかみたい人 |
| ②ハムレット (まんがで読破) Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | セリフの雰囲気も残しつつ絵で読みたい人 |
| ③新訳 ハムレット 増補改訂版 Amazon楽天 |
●●○ 中級 | △ | ✕ | 声に出して読むリズムを重視したい人 |
| ④ハムレット――シェイクスピア全集(1) Amazon楽天 |
●●○ 中級 | △ | ✕ | 脚注・解説つきで読み進めたい人 |
| ⑤ハムレット(新潮文庫) Amazon楽天 |
●●● 上級 | △ | ✕ | 定番の格調高い訳に触れたい人 |
| ⑥ハムレット(白水Uブックス) Amazon楽天 |
●●○ 中級 | △ | ✕ | 口語調でテンポよく通読したい人 |
| ⑦ハムレット(岩波文庫) Amazon楽天 |
●●● 上級 | △ | ✕ | 注釈をたどって深く読み込みたい人 |
| ⑧NHK「100分de名著」ブックス シェイクスピア ハムレット 悩みを乗り越えて悟りへ Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | 先に背景と読みどころを整理したい人 |
✓=対象であることを確認、✕=紹介した各訳そのもののオーディオブックはAudibleで配信が確認できませんでした(Audible公式サイトの検索で該当作品なし・2026年8月確認。ただし各訳とは別に、『ハムレット』を脚色したオーディオドラマは配信されています)、△=Kindle Unlimited対象かどうかを確認できませんでした(対象外という意味ではありません)。最新の対象状況は各商品ページでご確認ください(2026年8月確認)

以上、シェイクスピア『ハムレット』のおすすめ本でした。いきなり格調高い訳に挑まなくて大丈夫。まずはマンガか読みやすい現代語訳を1冊、気軽に手に取ってみてほしいな。戯曲はもともと耳で聴くもの。今回紹介した各訳そのもののオーディオブックはAudibleでは見つからなかったけど、『ハムレット』を脚色して声優陣が演じたオーディオドラマ『ハムレット 〜騎士ホレイショーが語る王子の物語〜』なら配信されているから、耳から味わいたい人はのぞいてみて。Kindle Unlimitedは対象の本が入れ替わるから、気になる版があったら一度チェックしてみてね!
Wikipedia日本語版「ハムレット」「ウィリアム・シェイクスピア」(2026年8月確認)
Wikipedia英語版「Hamlet」「Globe Theatre」(2026年8月確認)
コトバンク「ハムレット」「シェークスピア」(デジタル大辞泉・日本大百科全書)(2026年8月確認)
角川文庫・ちくま文庫・新潮文庫・白水Uブックス・岩波文庫・NHK出版 各社公式サイトの書誌情報(2026年8月確認)
Wikimedia Commons 画像ファイルページ(2026年8月確認)
記事の誤りを発見された場合はお問い合わせください。確認後、修正します。
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