
今回はシェイクスピア『マクベス』を読むための本を、目的別に紹介していくよ! マンガ・読みやすい現代語訳・定番の格調高い訳・作品を深く知る解説書の順に並べてあるから、自分に合いそうな入口から選べばOK。迷ったらまずは読みやすい現代語訳を1冊。『マクベス』は分量そのものが多くない作品だから、入口さえ間違えなければ、ちゃんと最後までたどり着けるよ。
『マクベス』といえば、魔女の予言、王殺し、血にまみれた手——という陰惨なイメージが先に立つ作品です。四大悲劇のなかでもとりわけ重く、読むのに気力がいりそうだ、と敬遠されがちではないでしょうか。
ですが実は、『マクベス』は四大悲劇(ハムレット・オセロー・リア王・マクベス)の一つでありながら、シェイクスピアの悲劇のなかでもっとも短いとされる戯曲です。寄り道になる場面がほとんどなく、主人公が坂道を転がり落ちるように破滅へ向かっていくため、読み始めると先が気になって止まらなくなります。
一度だけのつもりで手を出したことが、あとに引けなくなって次の一手を呼んでしまう——マクベスの転落は、そういう身近な心理を拡大したものです。恐ろしい話なのにどこか他人事に思えないまま、読者は最後まで連れて行かれます。
日本語で読める『マクベス』には、マンガ版から、いまの言葉づかいに寄せた現代語訳、舞台で使われてきた格調高い定番訳まで、いくつもの入口が用意されています。この記事では、その入口を目的別に整理して紹介していきましょう。
『マクベス』とは?
- 『マクベス』は、イングランドの劇作家シェイクスピアが書いた四大悲劇の一つで、11世紀のスコットランドを舞台にした戯曲
- 魔女の予言をきっかけに王を殺して王位を奪った武将が、罪の意識と猜疑心にのみ込まれ、暴君となって滅びていく物語
- 日本語訳は何種類もあり、マンガ・読みやすい現代語訳・定番の訳・解説書から自分に合う入口を選べば、シェイクスピアの悲劇でもっとも短いとされるこの作品は読み切れる
『マクベス』を書いたのは、16世紀から17世紀にかけてイングランドで活躍した劇作家シェイクスピアです。『ハムレット』『オセロー』『リア王』と並ぶ「四大悲劇」の一つに数えられ、いまも世界じゅうで上演され続けています。
書かれたのは1606年ごろとされていますが、正確な執筆年も初演の年もはっきりしておらず、研究者のあいだでも諸説あります。上演時間はカットなしでもおよそ2時間ほどと言われ、シェイクスピアの悲劇のなかでもっとも短い作品とされてきました。
物語の舞台は11世紀のスコットランドです。反乱と外国軍の侵攻を退けた将軍マクベスは、戦地からの帰り道で3人の魔女に出会い、「いずれ王になる」という予言を告げられます。
半信半疑だった予言の一部がその日のうちに現実となり、マクベスの心に野心が芽生えました。妻のマクベス夫人に背中を押された彼は、自分の城に泊まった国王ダンカンを殺害し、王位を手に入れてしまいます。
ところが王になった瞬間から、彼の人生は坂を転がり始めるのです。予言の続きにおびえて友のバンクォーを殺させ、疑心暗鬼のまま殺害を重ね、やがて誰からも見放された暴君になり果てます。マクベス夫人もまた、手から消えない血の幻に苦しみ、先に壊れていきました。
最後は、家族を殺されたマクダフらが軍を率いて城に迫ります。「女から生まれた者にマクベスは倒せない」という予言を信じ切っていた彼は、その言葉の裏をかかれる形で討たれ、物語は幕を閉じることになります。
妻の死を知らされた場面でマクベスが漏らす「明日、また明日、また明日」(第5幕第5場)の独白は、この作品でもっとも知られた一節です。原文は “Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow” で、時間だけがむなしく過ぎていく感覚を言い当てた言葉として読み継がれてきました。
もう一つ有名なのが、冒頭で魔女たちが唱える「きれいはきたない、きたないはきれい」(”Fair is foul, and foul is fair”)です。良いものと悪いものの境目が溶けていくというこの一行が、作品全体の空気をあらかじめ宣言しています。訳者によって言い回しが大きく変わる箇所でもあるので、訳を選ぶときの目印にもなるでしょう。
この戯曲が書かれたころ、イングランドの王位には1603年に即位したジェームズ1世がいました。スコットランド王を兼ねる君主であると同時に、悪魔や魔女の実在を論じた『悪魔学』を1597年に自ら著したとされるほど、この主題に強い関心を持っていた人物です。
当時のヨーロッパは魔女狩りが各地で行われていた時代でもありました。スコットランドを舞台に3人の魔女を物語の起点へ据えるという題材の選び方には、王の関心をつかもうとする劇団側の計算があったと考えられています。シェイクスピアの一座はジェームズ1世の即位後に国王の庇護を受ける「国王一座」となったとされ、宮廷での上演は仕事の一部だったのです。
物語の冒頭でスコットランド軍が戦っている相手は、反乱を起こした領主とノルウェー軍です。北欧の勢力が海を渡ってブリテン島へ押し寄せた時代の記憶は、ヴァイキングの活動がおさまったあとも、この地域の物語に長く影を落としていました。
なお、マクベスは完全な創作上の人物ではありません。11世紀のスコットランドには実在の王マクベスがおり、1040年に戦いでダンカン1世を破って王位に就き(戯曲のように寝所で暗殺したのではありません)、1057年に亡くなったとされています。ただし暴君だったという評価は後世に作られたという見方が強く、戯曲のマクベス像をそのまま史実として読むことはできません。

授業の課題で『マクベス』を読むことになったんだ。短いとは聞いたけど、王様を殺す話でしょ? 内容が重そうで、最後まで読み切れる気がしないんだよね…。

話は重いけど、文章の量はほんとうに少ないよ。シェイクスピアの悲劇のなかでいちばん短いとされてるからね。しかも寄り道の場面がほとんどなくて、最初の予言から最後の討伐まで一直線。重いのは中身であって、読む労力じゃないんだ。あとは自分に合う訳を選べば大丈夫。

四大悲劇の一つとは聞くけれど、『ハムレット』との違いがよくわからなくて…。教養として読むなら、どちらから手をつけるといいのかしら?

ざっくり言うと、ハムレットはやろうとしてやれない話、マクベスはやってしまって止まらなくなる話だよ。ためらいの物語と、転落の物語。分量もかなり違っていて、マクベスのほうがずっと短いんだ。最初の1本ならマクベスから入るほうが息切れしにくいと思うな。

ということで、ここからは入口を4つに分けて紹介していくね。①マンガでつかむ ②読みやすい現代語訳 ③定番の格調高い訳 ④解説書で深める、の順。下へ行くほどハードルが上がる並びだから、自分がいるところから選んでみて!
マンガで読む
まず物語の骨格をつかみたい人には、マンガ版が近道になります。『マクベス』は短い作品ですが、そのぶん展開が速く、マクベス・バンクォー・ダンカン・マルカム・マクダフといったスコットランドの武将たちが立て続けに登場します。
カタカナの名前が続くところで迷子になると、せっかくの一直線の展開が追えなくなってしまいます。絵で読めば、誰が王で誰が親友なのか、どこから裏切りが始まるのかが一目でわかるのです。
1〜2時間もあれば結末まで通せるので、課題の下読みにも、舞台や映画を観る前の予習にも向いています。ここで人物の顔が頭に入っていれば、あとから文章で読み直したときの手ごたえがまるで違ってくるでしょう。

マンガで済ませちゃうのって、なんだかズルしてる気がするんだけど…。

ズルじゃないよ。『マクベス』はもともと読み物じゃなくて、劇場で観てもらうための台本なんだ。目と耳でいっぺんに受け取るのが本来の形だから、絵から入るのはむしろ近い体験。筋を知ってから読み直すと、同じセリフがぜんぜん違って聞こえてくるよ。
登場人物の名前が多くて混乱しやすいと感じる人。1〜2時間で結末まで通せるので、課題の下読みや舞台・映画鑑賞の予習にも向いています。
シェイクスピア特有の言葉の響きやセリフの含みをじっくり味わいたい人には、この1冊だけでは物足りないかもしれません。
読みやすい現代語訳で読む
筋がつかめたら、次は文章で通して読む番です。いま「読みやすい」と評価されることが多いのは、河合祥一郎訳(角川文庫)と松岡和子訳(ちくま文庫)の2つでしょう。
河合祥一郎訳は、原文がもつ詩のリズムを日本語でも再現することを重視した訳とされ、声に出したときのテンポのよさが特徴です。研究者による訳でありながら、注に頼らずどんどん読み進められます。
松岡和子訳は、シェイクスピア全戯曲の個人訳という大きな仕事の一部で、現在のスタンダードの一つとされています。脚注や解説が手厚いため、時代背景まで確認しながら読みたい人に向いているでしょう。
もともと分量が少ない作品なので、読みやすい訳を選べば一日で読み終えることも十分に可能です。はじめての1冊なら、この2つのどちらかを選んでおけば大きく外すことはないはずです。

同じ作品なのに、訳でそんなに変わるものなの?

変わるよ。さっきの「きれいはきたない、きたないはきれい」だって、七五調に寄せる人もいれば、もっとぶっきらぼうに訳す人もいる。戯曲は声に出すために書かれた文章だから、訳者がどんな話し方を思い描いたかで、魔女の不気味さの種類まで変わっちゃうんだ。
原文がもつ詩のリズムを日本語でも感じたい人。声に出して読んでもつかえにくいテンポのよさが特徴で、注に頼らず読み進められます。
昔ながらの格調高い言い回しを求める人には、やや現代的すぎると感じられるかもしれません。
脚注や解説を確認しながら、時代背景まで含めてじっくり読み進めたい人。
脚注を読まずにテンポよく一気読みしたい人には、やや立ち止まる場面が増えるかもしれません。
定番・格調高い訳で読む
言葉の格調や含みを味わいたい人には、長く読み継がれてきた訳があります。福田恆存訳(新潮文庫)は戦後を代表する定番として知られ、舞台のセリフとしての強さが評価されてきました。
ただし語り口はやや硬く、いまの読者には読みづらく感じられるという声もあります。血なまぐさい場面の重さを文体ごと受け取りたい人には向きますが、初めての1冊としては人を選ぶかもしれません。
小田島雄志訳(白水Uブックス)は、シェイクスピアの全戯曲を一人で訳しきった仕事として知られています。刊行から時間は経っていますが、口調が軽やかで読みやすいと評価する人も多い訳です。
さらに、劇作家としての耳を通した木下順二訳(岩波文庫)や、英語の原文と日本語を並べて確認できる対訳版もあります。同じ場面を訳し比べると、訳者ごとの解釈の違いがはっきり見えてくるのが面白いところです。

先生は「新潮文庫を読んでおけ」って言ってたんだけど、それが正解ってこと?

昔からの定番だから、そうすすめる先生は多いよ。ただ、硬い訳で途中で止まるくらいなら、読みやすい訳で最後まで行ったほうがずっといい。まずは通読、格調を味わうのは2周目でも遅くないからね。マクベスは短いから、2周目のハードルもそんなに高くないよ。
舞台のセリフとして長く磨かれてきた、昔ながらの定番訳に触れたい人。
硬めの言い回しが多いため、初めて戯曲を読む人にはハードルが高く感じられることがあります。
シェイクスピア全戯曲を一人で訳しきった仕事に触れたい人。口語調で軽やかに読み進められます。
格調の高さより読みやすさを優先した訳のため、荘重な響きを求める人には物足りない場合があります。
劇作家自身の耳を通した訳文と、訳者による作品解説をあわせて読みたい人。
刊行から時間が経っている訳のため、最新の研究を反映した解説を求める人には向きません。
英語の原文と日本語訳を並べて確認しながら読みたい人。注解も充実しています。
まず日本語だけで物語を通読したい人には、対訳形式はかえって読みにくく感じられるかもしれません。
解説書で深める
読み終えると、今度は「なぜマクベスは予言をあそこまで信じてしまったのか」「マクベス夫人はなぜ先に壊れたのか」が気になってきます。そこを引き受けてくれるのが解説書です。
NHKの「100分de名著」から派生した「読書の学校」シリーズには『マクベス』を取り上げた巻があり、作家による特別授業という形で読みどころが整理されています。短くまとまっているので、通読後の復習にも、読む前の下地作りにも使えるでしょう。
あわせて知っておきたいのが、この作品が置かれていた場所です。『マクベス』は書物として読まれるより先に、劇場でお金を取って上演される商品であり、同時に宮廷で王の前に差し出される演目でもあったと考えられています。
作者本人に当時のことを語ってもらうとしたら、こんなところでしょうか。

新しい王は、魔女や悪魔の話に人一倍の関心をお持ちだった。ならば舞台に魔女を三人立たせ、王を殺した男が自ら滅んでいくさまをお見せすればよい。王座を奪う者の末路を描くことは、王への礼儀でもあったのさ。
難解な古典というより、当時としては最先端の娯楽であり、政治的な気配りでもあった——そう考えると、この戯曲はぐっと身近になります。解説書は、その空気ごと作品を渡してくれる案内役です。
日本で同じように芝居の台本を書いて名を残した人物といえば、『曽根崎心中』などで知られる近松門左衛門でしょう。シェイクスピアが亡くなったのは1616年、近松が生まれたのは1653年とされています。海をはさんだ2つの国で、「芝居の脚本を書く職業作家」がそれぞれ現れていたことになります。
読み終えたあとに作品の読みどころを整理したい人。作家自身の視点で語られる特別授業形式です。
訳文そのものではなく解説書なので、これ1冊だけでは『マクベス』の本文を読んだことにはなりません。
まとめ
最後に、ここまで紹介した本を比較表でまとめておきます。難易度と、どんな人に向くかを並べているので、自分の現在地に近いところから選んでみてください。
物語をまったく知らないならマンガ版、文章で通して読みたいなら読みやすい現代語訳、言葉の手触りを味わいたいなら定番の訳、読み終えたあとの整理には解説書、というのが大まかな目安になります。
『マクベス』は一冊で完結する戯曲です。1冊読み切れば、それで結末までたどり着けます。紙に線を引きながら読むか、電子で持ち歩くかは好みで決めて大丈夫です。
横にスクロールできます
| 📚 タイトル | 難易度 | Kindle Unlimited | Audible | こんな人向け |
|---|---|---|---|---|
| ①マクベス (まんがで読破) Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | まず筋を最短でつかみたい人 |
| ②新訳 マクベス Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | 声に出して読むリズムを重視したい人 |
| ③マクベス――シェイクスピア全集(3) Amazon楽天 |
●●○ 中級 | △ | ✕ | 脚注・解説つきで読み進めたい人 |
| ④マクベス(新潮文庫) Amazon楽天 |
●●● 上級 | △ | ✕ | 定番の格調高い訳に触れたい人 |
| ⑤マクベス(白水Uブックス) Amazon楽天 |
●●○ 中級 | △ | ✕ | 口語調でテンポよく通読したい人 |
| ⑥マクベス(岩波文庫) Amazon楽天 |
●●● 上級 | △ | ✕ | 訳者の解説もあわせて読みたい人 |
| ⑦マクベス(対訳・注解 研究社シェイクスピア選集7) Amazon楽天 |
●●● 上級 | △ | ✕ | 英語の原文と読み比べたい人 |
| ⑧別冊NHK100分de名著 読書の学校 あさのあつこ特別授業『マクベス』 Amazon楽天 |
●○○ 初心者 | △ | ✕ | 読み終えたあとに読みどころを整理したい人 |
✕=紹介した各訳そのもののオーディオブックはAudibleで配信が確認できませんでした(Audible公式サイトの検索で該当作品なし・2026年8月確認)、△=Kindle Unlimited対象かどうかを確認できませんでした(対象外という意味ではありません)。最新の対象状況は各商品ページでご確認ください(2026年8月確認)

以上、シェイクスピア『マクベス』のおすすめ本でした。いきなり格調高い訳に挑まなくて大丈夫。まずはマンガか読みやすい現代語訳を1冊、気軽に手に取ってみてほしいな。思っているよりずっと早くゴールが見えるはず。戯曲はもともと耳で聴くものだけど、今回紹介した各訳そのもののオーディオブックはAudibleでは見つからなかったんだ。耳から味わいたい人は、舞台の映像版を探してみるのもいいかも。Kindle Unlimitedは対象の本が入れ替わるから、気になる版があったら一度チェックしてみてね!
Wikipedia日本語版「マクベス (シェイクスピア)」「ウィリアム・シェイクスピア」(2026年8月確認)
Wikipedia英語版「Macbeth」「Macbeth, King of Scotland」「Daemonologie」「King’s Men (playing company)」(2026年8月確認)
コトバンク「マクベス」「シェークスピア」(日本大百科全書・デジタル大辞泉)(2026年8月確認)
Folger Shakespeare Library/Royal Shakespeare Company 公式サイトの作品解説(2026年8月確認)
国立国会図書館サーチ・openBD の書誌データ(2026年8月確認)
イースト・プレス・KADOKAWA・筑摩書房・新潮社・白水社・岩波書店・研究社・NHK出版 各社公式サイトの書誌情報(2026年8月確認)
Audible公式サイトのサイト内検索(2026年8月確認)
記事の誤りを発見された場合はお問い合わせください。確認後、修正します。
Amazonのアソシエイトとして、まなれきドットコムは適格販売により収入を得ています。



