今回は、905年に完成した日本で最初の勅撰和歌集「古今和歌集」についてわかりやすく丁寧に解説していきます。
古今和歌集はなぜ作られた?
「古今和歌集は日本初の勅撰和歌集」という説明は、どんな本にも載っていますが、そもそも「勅撰和歌集」って何かというと、以下のとおりです。
つまり、「古今和歌集はなぜ作られたのか?」という疑問に対するシンプルな答えは「当時の天皇だった醍醐天皇が編纂を命じたから」になります。
日本人は、古来より自分の気持ちを歌にして詠む習慣を持っています。日本人が歌を好んだことは、奈良時代に万葉集が編纂されていることからも知ることができます。
奈良〜平安時代、自分の気持ちを伝える和歌は、政治や恋愛においてとても大事なコミュニケーションツールとなります。つまり、「和歌が上手」=「コミュ力が高くて仕事ができるorモテる」ってことです。
平安時代の初期(800年代)、貴族の中でも藤原氏が突出した力を持つようになると、その裏で没落していく貴族が増えていきました。そして、没落した貴族の中には、政治の代わりに和歌に没頭するような人物が現れます。
その代表的な人物が在原業平と、この記事の重要人物となる紀貫之です。
この2人のような和歌を専業とするような人が増えてくると、和歌をコミュニケーションツールとして見るだけではなく、和歌そのものに芸術を見出そうとする動きが盛んになります。
そして、この和歌業界の新しい風に敏感に反応したのが醍醐天皇でした。
もともと和歌好きだった醍醐天皇は、世に大量に残されている和歌の中から、特に優れた和歌だけを厳選したとっておきの和歌集を編纂しようと、情熱に燃えていたのです。
このような和歌の価値観が大きく変わる中で、登場したのが古今和歌集なのです。
古今和歌集は誰が編纂したのか
とっておきの和歌集を編纂しようにも、天下を治める醍醐天皇自身がこれを行うのは不可能です。
そこで後醍醐天皇は、和歌の業界で評判高いよりすぐりの4名を抜擢します。
当初、編纂のリーダーは紀友則でしたが、紀友則が道半ばで命を落とすと、次は紀貫之が編纂の中心人物として活躍しました。
天皇から選ばれたにもかかわらず、実は4名の身分は決して高いものではありません。貴族の身分ですらなく、下級役人として働いていた身分でした。
政治への関心を失って和歌に没頭する人が多かったことを考えると、選ばれた4人の身分が低いのはある意味で当然とも言えるかもしれません。
古今和歌集の内容
古今和歌集は、数多くの和歌をジャンル分けして編纂しており、合計20巻で構成されています。
特に、四季の風情を載せた和歌・恋愛に関する和歌が多くの割合を占めているのが大きな特徴です。このあたりの匙加減は、紀貫之で色々と考えた結果でしょう。
収められている和歌は合計で約1,000首。そのうちの約2割が、古今和歌集を編纂した4人の和歌で占められています。
さらに4人の中でも紀貫之の和歌の数が突出して多いです。「自画自賛かよ!」って思う人もいるかもしれませんが、和歌のプロとして古今和歌集の編纂リーダーを任されるほどの人物です。身分は低いとはいえ、「素晴らしい和歌といえば俺の和歌に決まっているだろ」という自負があったんじゃないかな?と思います。
古今和歌集の特徴・歌風
古今和歌集は冒頭で、和歌に対する熱い想いを語っています。この和歌への想いを読むと、古今和歌集の特徴や歌風がわかってきます。
古今和歌集の冒頭は仮名序と呼ばれています。その仮名序を現代語訳で少しだけ載せておきますね。
仮名序が伝えたいことは、「和歌とは人の気持ちそのものである」ってことです。
そして古今和歌集では、人の心を動かすメインテーマとして春夏秋冬の四季と恋愛に関する和歌を大きく取り上げています。
恋は人の心を動かすのはわかるとしても、四季が人々の心を大きく動かすというのは、四季がはっきりしている日本ならではの感覚かもしれません。
古今和歌集の最大の特徴・歌風は、和歌の中に詠み手の気持ちを引き立てるための様々な技巧が採用されている点です。
技巧の中でも、掛詞・縁語というものが古今和歌集では頻繁に使われています。
このような技巧がほどこされている点で、古今和歌集には「知的」とか「理性的」という言葉がよく使われている印象を受けます。
古今和歌集の和歌を少しだけ紹介!
参考までに、3首だけ実際に収められている和歌を紹介したいと思います。
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
by紀貫之
【現代語訳】
人の心はさあどうだかわかりません。しかし懐かしいこの土地では、梅の花が昔とかわらずに素晴らしい香りとなって咲いていることだよ。
紀貫之が、大和(今の奈良県)の長谷寺に向かう際によく泊まっていた家に久しぶりに訪問した時の話です。宿の主人が、しばらく来てくれなかったことの皮肉を込めて、紀貫之に「宿は昔のまま、ちゃんとここにありますよ」と言うと、植えてあった梅の花から連想してこの宿主に対して詠んだ歌です。
皮肉に対して和歌で返答するとは、なんとも洒落ていますね。
わが君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで
byよみびと知らず(作者不明)
【現代語訳】
わが君の世は千代、八千代まで続いてほしい。小さな小石が大きな岩になってそこに苔が生えるまで
この和歌、実は日本の国歌「君が代」のもとになった和歌です。
和歌で登場する「君」の意味には、天皇説と恋人説があります。いずれにしても、大切な人に永遠に生きていて欲しいという強い気持ちを表現した和歌です。
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを
by小野小町
【現代語訳】
好きな人のことを思いながら眠りについたので、あの人が夢に現れたのだろうか。もし夢とわかっていたなら夢から覚めなかったのに
世界三大美女とも言われる小野小町の乙女チック和歌です。夢に好きな人が現れてトキメク気持ちを表現した和歌です。
古今和歌集を実際に読んでみよう!
古今和歌集は編纂後、多くの人に読まれました。
平安貴族の知っていて当然の教養とみなされ、和歌のバイブル本となりました。さらに、古今和歌集の和歌は百人一首にも多く収められています。
しかし、実際に古今和歌集を読もうとすると和歌の数は1,000もあるし、知識がないと読めないしで、現代の私たちが読むのは少しばかり大変です。
そこでオススメなのが以下に掲載する角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス日本の古典」シリーズです。
70首ほどの和歌を厳選して選んで、その代わりに古今和歌集についての解説や現代語訳を多く盛り込んでくれている本です。
初めて読もうとしても、どの和歌を読めばいいのかもわからないので、厳選してくれているのは地味にありがたいポイントです。
そして、「もうちょっと本気で古今和歌集を読んでみたい!」って方は、和歌をたっぷり掲載している以下の本にチャレンジしてみることをオススメします。
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