一条天皇の猫愛は異常【枕草子「上にさぶらう御猫」現代語訳】

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(一条天皇)

今回は、一条天皇の話をしようと思います・・・と言っても、堅苦しい話ではなく、清少納言の枕草子に記録されている一条天皇の猫愛がクレイジーすぎて面白かったのでそれを紹介します!

一条天皇はどんな人?

一条天皇は986年に即位した天皇です。即位当時たったの7歳でした。こんな子供が天皇になったのにはちゃんと理由があります。実は、一条天皇の天皇即位は、すべて藤原兼家という人物(有名な藤原道長の父!)に仕組まれた出来事だったのです。

一条天皇即位前の天皇は花山天皇という天皇。細かい話は省略しますが、藤原道長の父である藤原兼家は、一条天皇の祖父にあたります。藤原兼家は一条天皇を即位させ、一条天皇の祖父という立場を利用し、天皇の補助役(摂政)として政治を掌握しようと考えました。

そうすると、当時在位中だった花山天皇は、藤原兼家にとって邪魔な存在になっていきます。そこで、藤原兼家は息子たちと組んで強引に花山天皇を天皇の座から引きずりおろし、一条天皇を早く即位させよう!と策略を考えました。藤原兼家の策略は成功し、謀られた花山天皇は譲位(じょうい。天皇位を譲ること)せざるをえない状況に追い込まれます。こうして、譲位した花山天皇の後に即位したのが一条天皇でした。

以上の経緯は以下の記事で詳しく紹介しています。

今回は、長徳の変という事件について説明します。この事件の意義は、長徳の変によって藤原道長のライバルだった藤原伊周が没落したこ...

イケメンオーラが漂う一条天皇の人柄

そんな経緯で即位した一条天皇ですが、成人するにつれ、立派な天皇へと成長していきます。強大な権力を持つ藤原氏の傀儡(かいらい)になることもなく、藤原氏との絶妙なパワーバランスの中で見事に政治を行いました。

一条天皇は、温和な性格で、詩を好み、音楽堪能で笛を吹くのが趣味で勉学にも励むようなパーフェクトな人物でした。清少納言の枕草子、紫式部の源氏物語、この日本2大文学作品は実はどちらも一条天皇の在位中に作られましたが、これは決して偶然ではなく、一条天皇がその作品の素晴らしを理解し、無下にすることがなかったからこそ生まれた作品なのです。

どうやらそんなパーフェクト天皇も、猫の前では理性が吹っ飛ぶようです。そんな以外な一面にギャップ萌え!と言わんばかりに、一条天皇は女性たちにもさぞかしモテたことでしょう!(てきとー)

では、早速枕草子を読んでみましょう。細かい解説はしませんが、原文と並べて内容を紹介します。

人間より偉い猫の話

上にさぶらう御猫は、かうぶりにて、「命婦おとど」とて、いみじうをおかしければ、かしづかせ給(たま)ふが、

「殿上でお仕える御猫は、五位の位をいただいた「命婦のおとど」と名付けられたとても可愛い猫で、天皇もたいそう大切にしていたが・・・・」

ここで注目して欲しいのは、「殿上でお仕える御猫は、五位の位をいただいた」ってところ。殿上とは、ざっくりと宮内の中でも天皇がいる場所(内裏と言います)のこと。天皇にお近づきになれる場なので、官僚の中でも一定の身分の者でなければ殿上に上がることはできませんでした。殿上に上がることを許された者は殿上人(てんじょうびと)と呼ばれ、殿上人の中でもさらに五位以上の位の高い者は、いわゆる「貴族」と呼ばれました。ちなみに、漫画「ワンピース」で登場する天上人の語源は平安時代の殿上人だと思います。

多くの官僚たちは、そんな憧れの貴族になることを夢見て日々仕事に励んでいたわけですが、「命婦のおとど」と呼ばれた猫は、その容姿と愛嬌だけで皆が憧れる五位の位になってしまいました。もちろん位を授けたのは一条天皇です。

しかも、冗談もあったのだろうと思いますが、結構ガチで任命していたようなのです。仕事にプライベートを持ち込んでしまっているところを思うと、当時の部下たちの困った顔が簡単に想像できます。

猫をからかったら犬が流罪になった話

端に出でて臥したるに、乳母の馬の命婦、「あな、まさなや。入り給へ」と呼ぶに、日の差し入りたるに眠りてゐたるを、おどかすとて、「翁丸いづら。命婦のおとど食へ」といふに、「まことか」とて、痴れものは走りかかりたれば、おびえまどひて、御簾のうちに入りぬ。

朝餉(あさがれひ)の御前に、上おはしますに、御覧じていみじうおどろかせ給ふ。猫を御懐に入れさせ給ひて、男ども召せば、蔵人忠隆・なりなか参りたれば、「この翁丸、うち調じて、犬島へつかはせ、ただいま」とおほせらるれば、あつまり狩りさはぐ。馬の命婦をもさいなみて、「乳母かへてむ。いとうしろめたし」と仰せらるれば、御前にも出でず。

縁先で猫が寝ていると、その猫の育て役だった馬の命婦という人物がやってきて「まぁ、なんてお行儀が悪いんでしょう。さぁ中へお入り!」と声をかけたけど、もちろん猫なので言うことを聞くはずもなく、日向ぼっこをして動こうとしませんでした。

この様子を見た馬の命婦は、猫をちょっと脅かしてやろうと考えます。当時、翁丸(おきなまる)という犬を飼っていたのでその犬を呼んで「翁丸やどこにいるか。命婦のおとどを食べておしまい!」と言いました。

すると翁丸は、利口だったのか馬の命婦の言ったことを理解して、猫を脅かしてやろうと猫に向かって走り始めました。もちろん、猫はその様子を見て逃げてゆきます。簾(すだれ)を潜って建物の中へと飛び込んでいきました。

一条天皇は、ちょうど犬が猫を追いかけている様子を目撃してしまい、たいそう驚きました。猫を懐に抱き、蔵人(くろうど)という役職の男を2名(忠隆・なりたか)呼び出して「この犬を打ち懲らしめて島流しにしてしまえ!今すぐにだ!!!」と命じます。ちなみに、蔵人とは、天皇の側近の人々です。

この一条天皇の仰せを聞いて、男たちが集まってきて犬(翁丸)を狩りたてて騒ぎ始めました。さらに、一条天皇の怒りは馬の命婦にも向かいます。「あの命婦も変えてしまおう。あいつではダメだ」。

こうして、犬は島流しにされてしまいました。冗談みたいなマジな話。

謎の犬の鳴き声

「あはれ。いみじうゆるぎ歩きつるものを」「三月三日、頭弁の、柳かづらせさせ、桃の花を挿頭に刺させ、桜腰に差しなどして、歩かせ給ひし折、かかる目見むとは思はざりけむ」など、あはれがる。「御膳の折は、必ず向かひさぶらふに、寂々しうこそあれ」などいひて、三四日になりぬる昼つ方、犬いみじう啼く声のすれば、なぞの犬の、かく久しう啼くにかあらむと聞くに、万づの犬、とぶらひ見に行く。

犬が追放された後、「気の毒に。前はあんな悠然とした姿で歩いていたのに・・・」「3月3日の節句には、頭に桃の花、桜を腰に差して歩いていたのにまさかこんなことになるとは思いもしなかっただろうに。」などとみんなで気の毒がりました。

「中宮様の食事時になると、余りをいただこうと控え待っていたのに、寂しいわね」などと話をして3〜4日経った昼頃、犬の酷く鳴く声がしました。一体どんな犬が泣いているのだろうかと思いながらその声を聞いていると、その鳴き声を聞いてその辺りにいた犬たちが一斉に泣いている犬の様子を見に向かっていきます。

さて、一体何が起こっているのでしょうか。

翁丸現る!

御厠人なるもの走り来て、「あな、いみじ。犬を蔵人二人して打ち給ふ。死ぬべし。犬をながさせ給ひけるがかへり参りたりとて調じ給ふ」といふ。心憂のことや、翁丸なり。「忠隆・実房なんど打つ」といへば制しにやるほどに、かろふじてなきやみ、「死にければ、陣の外にひきすてつ」といへば、あはれがりなどする夕つかた、いみじげにはれ、あさましげなる犬の、侘しげなるが、わななきありけば、「翁丸か、このごろかかる犬やはありく」といふに、「翁丸」といへど聞きも入れず。「それ」ともいひ、「あらず」ともこちぐち申せば、「右近ぞ見しりたる、呼べ」とて召せば、参りたり。

トイレ掃除の者が走ってやってきて、「酷いことですわ。蔵人(くろうど。天皇の秘書的な人)が2人係で犬を打ちすえているのです。あれでは犬が死んでしまいます。流罪にされた犬が帰ってきたので、懲らしめているのですわ。」と言います。その犬とは、心配していた翁丸だったのです。

トイレ掃除の者は続けて言います。「忠隆と実房が犬を打ちたたいているんです!」

これを聞いて忠隆と実房を止めさせるように使いの者を送りました。こうして犬の鳴き声は止みましたが、使いの者から「(泣き止んだのではなく)死んでしまったので、門の外に犬を捨ててしまいました」と言う話を聞き、皆で「なんと悲しい・・・」と憐れみました。

ところが、夕方になると酷く腫れ上がった情けない姿をした犬が震えながら歩いているのを皆が目撃します。「あの犬は翁丸なのかしら、最近あの様な犬など見かけませんでしたし。ってそんなわけないわよね」などと思ったので「翁丸や」と声をかけてみたが、犬は無反応である。皆で「あれは翁丸に違いないわ!」とか「いや、あれは翁丸じゃない!」とかあれこれと話していると中宮様が「右近なら分かる。呼びなさい」と言い、右近がやってきました。

右近の判断はいかに!?

「是は翁丸か」と見せさせ給ふ。「似ては侍れど、これはゆゆしげにこそ侍るめれ。また翁丸か、とだにいへば、喜びてまうでくるものを、呼べど寄りこず。あらぬなめり。それは打ちころして棄侍(すてはべり)ぬとこそ申しつれ。ふたりして打たんには、生きなんや」と申せば、心憂がらせ給ふ。

中宮様は「この犬は翁丸か?」と右近に確認させます。右近は「似てはいるが、こちらの犬は翁丸よりも憎らしげでございます。それに『翁丸』と呼べば喜んで寄ってくるのに、この犬は呼んでも寄ってきません。それに翁丸は男二人に打ち殺されたと聞いています。いきてはいますまい。」と言い、中宮様は心を痛めました。

涙を流す翁丸

暗うなりて物食はせたれど、食はねば、あらぬものにいひなしてやみぬるつとめて、御けづりぐし・御手水(てうづ)など参りて、御鏡を持たせさせ給ひて御覧ずれば候に、犬のはしらもとにゐたるを見やりて、「あはれ、昨日は翁丸をいみじうも打ちしかな。死にけんこそあはれなれ。なにの身にこのたびはなりぬらむ、いかにわびしき心地しけん」とうちいふに、このゐたる犬の、ふるひわななきて涙をただ落としに落とすに、いとあさまし。さは翁丸にこそはありけれ、よべは隠れ忍びてあるなりけり」と、あはれにそへてをかしきこと限りなし。

暗くなってから顔の腫れ上がった犬に餌を与えてみたが食べることはありませんでした。こうしてこの犬は翁丸ではないとみなが思った次の日の朝、外に犬が座っていました。中宮様が「翁丸は本当に気の毒だったわ。亡くなってしまってとても可哀想です。生まれ変わったらどのような姿になっているのでしょう。打たれたのはさぞかし痛かったろう・・・」などと言っていると、外に座っていた犬が体を震わせ涙を流し始めました。

これには中宮様もびっくり!

ということは・・・この犬は翁丸。昨日の夜は静かに隠れていたのだと思うと可哀想だと思いつつも、生きていてよかった・・・と面白く思う気持ちもありました。

翁丸との感動的な再開

御鏡うちおきて「さは翁丸か」といふに、ひれ伏していみじくなく。御前にもいみじううち笑わせ給ふ。右近内侍召して、かくなんと仰せらるれば、笑ひののしるを、上にも聞こしめして、渡りおはしましたり。「あさましう、犬などもかかる心あるものなりけり」と、笑はせ給ふ。上の女房なども、聞きて参り集まりて、呼ぶにも、今ぞたちうごく。「なほこの顔などの腫れたるものの、手をせさせばや」といへば、「ついにこれをいひあらはしつること」など笑ふに忠隆聞きて台盤所のかたより、「まことにや侍らん。かれ見侍らん」といひたれば、「あなゆゆし、さらにさる物なし」といはすれば、「さりとも見つくるおりも侍らむ。さのみもえ隠させ給はじ」といふ。

中宮様は鏡を置き「お前は翁丸かい」と呼ぶと、犬はひれ伏して泣き出します。これを見て中宮様はすっかり安心した様子で笑顔を見せました。

中宮様の笑顔を見て、皆が笑って大騒ぎとなった。帝(一条天皇)もこれを聞きつけて、こちらへやってきます。そして帝も「驚いた。犬にもこんな分別があるのだな」とお笑いになりました。

続いて女房たちも「とにかく、翁丸の腫れた顔を手当てしましょう。」「遂に犬の正体がわかったのですね」と笑います。

次に忠隆(犬を処罰した張本人)がやってきました。「やはりその犬は翁丸なのですね。拝見しましょう。」

女房たちは言います。「縁起でもない。翁丸などここにはいませんよ」

忠隆「隠してもいつかわかることです。そう隠し通せるものではありませんよ」と言います。

感動的な翁丸の涙

さてかしこまり許されて、もとのやうになりにき。なほ、あはれがられてふるひなき出でたりしこそ、世に知らずをかしく、あはれなりしか。人など人にもいはれて泣きなどはすれ。

結局、犬の罪は許されることとなり、犬は元の身分に戻りました。翁丸が自分への同情で身を震わせて涙をこぼした様子は、言葉にならないほど感動的であった。人間なら他人に同情されて泣くこともあるだろうが、まさか犬が泣くとは。

まとめ

一条天皇の猫への異常な愛、翁丸をめぐる中宮様や周りの人々の様子。そして、人間味あふれる翁犬の仕草や感動の再開。

枕草子は、清少納言が日常の出来事をまとめた文学作品ですが、このようなドラマのようなお話もあるんですね。(多少は誇張されてるのかもしれませんが)

枕草子は面白い!

数記事に渡り枕草子の話をしました。

前回の記事(長徳の変とは?わかりやすく解説【花山法皇乱闘事件。藤原伊周の敗北と藤原道長の登場】)で少しだけ清少納言に触れたの...
さて、前回(清少納言の枕草子を読むなら藤原定子のことを絶対に知っておけ!)は枕草子「大進生昌が家に、〜」を解説する前段として、清少納...

枕草子はとても現代の我々が読んでもとても面白い個展です。機会があればぜひ読んでみては?少しだけ本を紹介してみます。

↓漫画だから分かりやすく・楽しく読める入門書的存在。他にもいろんなシリーズがあります。

↓安心の岩波文庫。現代語訳付きなのでスタンダードな感じ。

↓岩波文庫の現代語訳なし版。本格的に古典を堪能したい人向け(私は読めない)

↓私がkindle unlimitedで見つけて実際に読んだ本。

枕草子は有名な古典なので、多くの本が出版されています。手にとってみて気に入った本を読んでみるのが良いでしょう!

【次回】

【藤原道長】藤原道長は、平安時代中期に天皇の外戚という立場を利用し、最高権力者として権勢を振るった人物です。平安時代...

【前回】

さて、前回(清少納言の枕草子を読むなら藤原定子のことを絶対に知っておけ!)は枕草子「大進生昌が家に、〜」を解説する前段として、清少納...

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