今回は、経済市場で起こる寡占・独占について、わかりやすく丁寧に解説していくよ
寡占・独占とは
『寡占』とは、ある商品の生産量・価格などを市場の少数企業が支配している状態のこと
『独占』とは、ある商品の生産量・価格などを1社がほとんど独占してしまっている状態のこと
を言います。
寡占・独占はなぜダメなのか?【市場の原理】
寡占・独占は市場の失敗(市場の限界)の1つとされていて、寡占・独占が起こると消費者が多大な不利益を被ることになります。
そのため、多くの国では寡占・独占が起こらないよう法律などで規制が設けられています。
寡占・独占が、市場の失敗を引き起こすことはわかったわ。
でも寡占・独占の何がダメなのかしら?
それは、市場で寡占・独占が行われると企業間の競争がなくなり、寡占・独占が行われていないときよりも商品価格が下がりにくくなってしまうからです。(この性質のことを「価格の下方硬直性」と言います。)
競争がなくなると、企業は商品の価格を下げる必要がなくなります。
ライバルがいないので「価格を下げて消費者にたくさん商品を買ってもらおう!」という企業のモチベーションがなくなるからです。
逆に消費者は、寡占・独占がなければもっと安く買えたはずの商品を、高値で買わざるを得なくなってしまいます。
話をまとめると、寡占・独占では価格の下方硬直性によって市場メカニズムがうまく機能しなくなり、消費者は適正価格で商品を買えずに不利益を被ってしまう・・・ってことです。
寡占状況だとなぜ価格が下がらなくなるのか
独占状態で商品価格が下がらなくなるのはわかったけど、なぜ寡占状態でも下がらなくなるのかな?
だって、たとえ少数でも複数の企業が市場にいるなら、競争が起こるんじゃないの?
実は、ライバルが少ない市場では企業同士が競争をやめてしまうことがよくあるんだ。
例えば販売している企業がA・B・Cの3社しかないような寡占市場の商品があったとします。
この3社は、基本的に価格競争を避けようと考えます。値下げをすれば確かに商品は売れるけど、手元に残る利益が減ってしまうからです。
でも、同じような商品なら他社よりも値下げをしないと商品が売れなくなるのでは?
・・・と思うかもしれませんが、実は値下げをせずに売上数を維持する方法があるんです。
その方法とは、
3社が商品に同じような価格設定をすることで、消費者が値段の高い安いで商品を選べないようにする!
っていう方法です。
3社が商品の価格設定を全部同じにすれば、擬似的に独占に近い状態が作れる・・・ってことです!
寡占市場なら企業数が少ないから、企業同士が足並みを揃えることが簡単なんだ。
そのため、もし3社のうちA社が商品価格を値上げしたとすると、B社・C社もすぐにA社と同じ価格に商品を値上げすることになります。
寡占市場なら、擬似的な独占状態を生み出せることはわかったよ。
でも、3社横並びの価格はどうやって決まるの?
寡占市場での価格は、たいていの場合、寡占市場の中で一番影響力を持つ企業が率先して価格を決めて、他の企業がその価格に合わせる・・・という方法で決まっていきます。
寡占市場において率先して価格設定を行う企業のことを専門用語でプライスリーダーと言い、プライスリーダーが設定する価格のことを管理価格と言います。
他の企業たちは、「寡占市場では価格競争をしなくても、プライスリーダーと同じ価格設定にしておけば商品はしっかり売れて儲けがでる!」ということを知っているので、プライスリーダーとあえて価格競争をする企業はほとんどいません。
独占・寡占が起こる条件
寡占・独占が起こる条件は、大きく3つあります。
他社が参入しにくい業界
・初期投資に巨額の費用がかかる
・特許を取得しているので他社が真似できない商品を持っている
・法律などの規制がある
など、他社が参入するのが難しい業界では寡占・独占が起こりやすくなります。
企業の巨大化
企業が大きくなると、寡占・独占が起こりやすくなります。
例えば、とある大企業D社が事業拡大のため、巨大な工場や最新設備をどんどん導入して、高品質の商品を安価かつ大量に生産することに成功したとします。
このD社の商品に対抗できるのは、D社と同じような工場・設備を用意できる巨大な資本力を持っている企業に限られます。
もしD社に対抗できる大企業が同じ業界に存在しなければ、他社は次々とD社に敗北することとなり、その業界はD社の商品によって独占されることになります。
※もしD社に対抗しうる大企業が数社いた場合は、価格競争が続くか寡占市場が形成されることになります。
このように、企業が巨大化することで他者を淘汰し、自然と独占状態になっていくことを自然独占と言います。
商品規格を支配する(デファクト・スタンダード)
IT業界では、商品規格を特定の企業が支配してしまうことが多々起こります。
わかりやすいのは、パソコンのOSです。
世の中にはさまざまなOSがありますが、実際にパソコンを買っていろんなことをしようと思うと、事実上、選べるOSはWindow(ウィンドウズ)かMac(マック)しかありません。
・・・というのも、パソコン上で起動する多くのアプリケーションやマウスなど付属品は、シェアの多いWindowsやMacを前提に作られているので、マニアックなOSを使うとエラーが多発してしまう可能性があるからです。
WindowsやMacが市場で圧倒的なシェアを手に入れたことで、パソコンに付随する多くの商品もWindows・Macの規格を前提として作られるようになってしまったんだ。
このように、特定の企業がある分野で商品規格を支配してしまうことをデファクトスタンダードと言います。
デファクトスタンダードの例は、他にもたくさんあります。
マイクロソフトのOfficeソフト(ワードとかエクセルとか)
ワード・エクセルは、資料作成ソフトで圧倒的なシェアを占めていて、業界によってはOfficeソフトがないと仕事がままならず、Officeの導入が必須の場合も珍しくありません。
WebブラウザのGoogle Chrome
Webブラウザで圧倒的なシェアを占めているのがGoogle Chromeです。
そのため、WebサイトやWEB上のアプリケーションなども他ブラウザよりもGoogle Chromeの規格に適用することを優先するようになります。
すると、さまざまなサービスがGoogle Chromeの利用を前提としたものになる、つまりデファクトスタンダードになっていきました。
寡占・独占を規制する法律、独占禁止法!
日本では、企業が利益を求めて意図的に寡占・独占市場を築かないよう、独占禁止法という法律でコンツェルン・カルテル・トラストを禁止しました。
コンツェルン(企業連携)
とある巨大企業が多くの企業を支配下に置くことでさらに巨大化すること。
カルテル(企業連合)
寡占市場において、企業同士が裏で話し合いを行うことで価格を決めてしまうこと。
寡占市場では多くの企業がプライスリーダーが決める管理価格に追随する・・・という話をしたけど、管理価格を決める際に裏で企業同士がグルになって話し合いをするとカルテルとなり法律違反になります。
トラスト(企業合同)
ライバル企業同士が合併して、意図的に独占を図ろうとすること
寡占・独占市場の例
寡占市場の例
代表的なのが、ビールとネット回線です。
ビール業界は、アサヒ・サントリー・キリン・サッポロの4社でシェアの95%以上を占めています。
ビール業界は寡占市場で、価格競争が停滞しているため、スーパーやコンビニで並んでいる4社のビールはどれもほとんど同じ価格です。
もう1つのネット回線は、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社がほとんどシェアを占めています。
※楽天モバイルはシェアを獲得できていないので、ここでは寡占企業には含めていません。
「格安回線(MVNO)もあるじゃん!」と思うかもしれませんが、MVNOは上記3社の通信回線を借りていることがほとんどなので、やはり3社寡占の状態には変わりありません。
ビール業界もネット回線業界も価格競争をしない代わりに、広告やキャンペーンや商品を差別化することで、非価格競争を繰り広げています。
独占市場の例
独占市場の代表例には、電気・JRが挙げられます。
電気・JR業界は、インフラ整備に巨額の資金が必要だったり、国の厳しい規制が設けられているため、参入障壁が高すぎてライバルが現れません。
その結果、独占市場が形成されています。
電気・JR業界は政府から独占が認められている代わりに、政府の認可がないと料金設定を勝手に変えることができないようになっています。
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