今回は、経済の話で頻繁に登場するブロック経済についてわかりやすく丁寧に解説していきます。ブロック経済と一緒に登場する保護貿易についても解説します。
ブロック経済ってそもそも何?
ブロック経済とは、自国と植民地を中心に経済を回して、自国にとって不利益となる他国からの貿易をシャットアウトする経済の仕組みのことです。
1930年代にイギリスやフランスなどの植民地を持つ国でブロック経済が流行るようになりました。
ブロック経済を実施すると、お金(経済)は本国と植民地の間でしか動かなくなります。このお金の動く経済圏のことをブロック(bloc)と呼びます。
ブロック経済のブロックとは「塞ぐ、封鎖する」という意味の”block”ではなく、「圏、連合」という意味の”bloc”です。(英語の豆知識)
ブロック経済のメリットは、身内だけで経済を回せるので、他国の経済がボロボロになってもその影響を受けにくい点にあります。
ブロック経済を成功させるには、国家が国の貿易に介入して、他国との貿易を制限しなければなりません。このような、国家が深く介入する貿易のことを「保護貿易」と呼びます。反対に国家の介入や干渉のない自由な貿易形態を「自由貿易」と呼びます。
ブロック経済には当然デメリットもあります。
なぜ、このようなデメリットがあってもなお、ブロック経済を実施する国が現れたのでか?
その答えは、保護貿易のメリットである「他国の経済がボロボロになってもその影響を受けにくい」ってところにあります。
ブロック経済はなぜ広まったのか
ブロック経済が広がるきっかけとなったのは、1929年にアメリカで起こった世界恐慌でした。
当時、アメリカは第一次世界大戦(1914年)の特需によって大成長を遂げました。
第一次世界大戦の舞台はヨーロッパだったので、アメリカ本土の被害はゼロ。兵器の大量生産と輸出によって大儲けしたわけです。
しかし戦争が終わってヨーロッパが復興を始めると、アメリカの製品は徐々に売れなくなり、アメリカの発展にも陰りが見えてきました。
ところが、多くのアメリカ国民はこの不況のサインに気付きません。
アメリカの会社は最強!永遠に成長し続ける!株を買って寝てるだけで毎日お金が増えていく!株を買わない人はお金をドブに捨ててるのと同じ!人生損してる!
と、株式に手を出す人が急増。
実体経済は不景気に突入しつつあるのに、株価だけが上昇するバブル経済が続きました。
実体経済と株価・不動産価格が大きく解離している経済状況のことをバブル経済と言います。
しかし、バブル経済は長くは続きません。
・・・あれ?
さっきまで『株を買わない人はお金をドブに捨ててるのと同じ!』とか言ってる人いたけど、最近アメリカの商品ってあまり売れていないような気がするなぁ。
こうやって現実に気付く人が増えると、次第に株は売られ始め、株価は暴落してしまうからです。
その株価暴落(バブル崩壊)が起こったのが1929年でした。みんなが株を爆買いした反動で、売られる時も大量の株が売られたため、株価は大暴落。
そして大暴落で資産を失った人がパニックになり、さらに大量の株式を売る・・・という、パニックがパニックを呼ぶ大混乱に陥ります。
この時のアメリカの株価大暴落の影響は、世界中に波及してしまい、世界全体が不況に陥ることになります。
そして、アメリカの株価大暴落→世界が不況に突入という一連の流れのことを世界恐慌と言います。
世界を絶望に陥れた世界恐慌
なぜ、株価が暴落すると世界が不況になるのか、少し解説しておきます。
理由その1:負の連鎖で次々と仕事が無くなる
株価の大暴落で多くの個人・企業が資産を失い、予定されていた工事や新しい事業計画が次々と中止になります。
すると、以下に掲げるような負の連鎖が起こります。
- A社がB社にお願いしていた工事を中止
- 工事の中止により、B社は業績にダメージを受ける
- 業績悪化によってB社も、C社にお願いしていた自社の設備投資を中止
- C社の業績が悪化。そしてC社も、D社にお願いしていた仕事を中止・・・(以下ループ)
こうして、株価暴落の影響は広範囲に広がっていきます。
この負の連鎖は、2020年(令和2年)に世界中に広まった新型コロナウイルスによる不況でも見られた現象です。
理由その2:会社が倒産して失業者が爆増
上で紹介した負の連鎖の中には、業績悪化に耐えられずに倒産する会社も多くありました。会社が倒産すると、そこで働く人たちは失業者となります。
1929年に3.2%だったアメリカの失業率は、わずか4年後の1933年には24.9%にまで急増。
中には、失業率が33%まで上昇した国もありました。
失業者の多くは生活する術を失い、貧困に苦しむことになります。こうして、株価の大暴落は多くの人の日常生活にまで影響を与えるようになるのです。
理由その3:銀行の倒産によるさらなる負の連鎖
会社が倒産すると、その会社にお金を貸していた銀行が困ります。貸していたお金を回収できなくなるからです。
多くの会社が倒産し始めると、回収できない貸した金(債権)が膨大な額となり、貸し倒れにより銀行までもが倒産することになります。
銀行が倒産すると、その銀行に預けている預金もパーになる可能性があります。
ヤバイ・・・。自分がお金を預けている銀行も倒産するかもしれない。
早く預金を引き下ろして、タンス預金しないと!!!!
1つでも銀行が倒産すると、みんなこんな風に考えるので、各銀行で一斉に預金の引き下ろしが行われます。これを「取り付け騒ぎ」と言います。
取り付け騒ぎが起こると、パニックになった人たちが一斉に銀行に押し寄せるので、銀行は阿鼻叫喚の地獄絵図と化します。
預金の一斉引き下ろしによって銀行の手元資金が減っていくと、なんとか頑張っていた銀行の中には、取り付け騒ぎでトドメを刺され、倒産する銀行もありました。
こうして、1つの銀行の倒産から負の連鎖で次々と銀行が倒産。生き残った銀行も、「倒産しそうな会社に金は貸せない」と貸し渋りをはじめ、融資を受けれれば助かったはずの企業までもが倒産するハメになりました。(そして会社の倒産は、銀行にも悪影響を与え、再び負のループに入ります・・・)
ブロック経済ブームがやってくる!
この世界恐慌に対応するために、登場したのがブロック経済です。列強国を中心にブロック経済が次々と採用されるようになります。
高校の教科書では、具体的なブロックとしてイギリスとフランスの話がよく取り上げられます。
ブロック経済のやり方
次にブロック経済のやり方を紹介します。
ブロック経済の大事なポイントは、「いかにして自国に不都合な貿易を排除するか」という点です。
この点をクリアするために、大きく2つの方法が採用されました。
方法その1:輸入関税の引き上げ
ブロック経済の圏外から安い輸入品が輸入されないよう、経済圏以外の国に対して高率の輸入関税をかけて締め出しを行います。(逆に、ブロック経済圏の国々にたいしては輸入関税を引き下げました。)
フランスへ1,000円の商品を輸入する場合を考えてみます。状況は以下のとおりとしましょう。
輸入元 | 輸入関税 | ブロック経済圏 |
---|---|---|
日本 | 50% | 圏外 |
オランダ | 10% | 圏内 |
輸入関税は、「輸入して商品を仕入れる人」が支払います。今回のケースだと、フランスにいる商人です。
フランスの商人は、オランダの商品は1,100円で仕入れできますが、日本の商品は1,500円じゃないと仕入れできません。
これが同じ商品だとしたら、あなたはどっちの国から商品を仕入れますか?
・・・当然、オランダですよね。
ブロック外の国の輸入関税を上げて輸入品が入ってこないようにすることで、商売上のライバルが減り、自国の産業を守ることができます。
方法その2:通貨の切り下げ
通貨の切り下げとは、自国の通貨の価値を安くしてしまうことです。
例えば、金1g=100円だったのが、金1g=500円になると通貨が切り下げられたことになります。
昔なら500円で5gの金を買えたのに、今では金1gしか買えないってことは、お金の価値が下がってしまったということですからね。
当時は、金本位制と呼ばれる通貨の価値を金のグラム数であらわす制度が世界的に採用されていました。なので、お金の価値を金の重さ(グラム)で表現しています。
なぜ、通貨の切り下げがブロック経済に良いのかというと、「通過を切り下げる=輸出で儲かる=自国が潤う」という仕組みがあるからです。
例えば、金1g=100円の時に商品を輸出して金2g分(200円)儲かったとします。
同じく金1g=500円の時に、商品を輸出して金2g分儲かった場合、儲けはいくらになるでしょうか?
・・・答えは2g×500円=1,000円です。
これはシンプルすぎる例かもしれませんが、通過を切り下げるだけで、800円も利益を増やすことができます。輸出で儲かるってことは、国の収入も増えるので国としても大歓迎・・・ってわけです。
ブロック経済が世界に与えた影響
ブロック経済の広まりは、それまでの世界貿易を一変させ、世界経済に大きな影響を与えました。
ここではブロック経済が世界に与えた影響について大きく3点を紹介します。
影響その1:弱い国にブロック経済は無理ゲー
植民地の少ない国はブロックを形成しても元の経済規模が貧弱であり、他国との貿易がなければ経済を維持できませんでした。
しかし、多くの国が自国に不利な貿易をシャットアウトしてしまっため、その貿易が行き詰まります。
このような国では、ブロック経済を採用しても世界恐慌の影響から回復することがなかなかできず、むしろ、さらなる不況が国を襲います。
そして、さらなる不況に襲われた国としてよく取り上げられるのが、ドイツと日本です。
ドイツは第一次世界大戦での敗北により植民地・領地を失い、多額の賠償金を背負っていました。輸出を中心に国を復興させようとしていたところに、世界恐慌→ブロック経済の流れで輸出がストップして経済が詰みました。
日本は、他の列強国に比べて植民地政策が遅れていました。(当時は韓国・台湾を植民地としていた)
当時財務大臣だった高橋是清のナイスプレーで、経済を持ち直すも、中小企業の倒産が相次ぎ、やはり経済が行き詰まってしまいました・・・。
影響その2:軍国主義の始まり
ドイツや日本などの持たざる国は、生き残りをかけて他国の資源・領土を武力によって奪う軍国主義の思想へと傾倒していきます。
ドイツではナチス党のヒトラーが登場して、隣国を次々と侵略していきました。
日本では陸軍・海軍を中心に侵略戦争を望む声が大きくなりました。この声は現実のものとなり、1931年の満州事変へと繋がっていきます。
影響その3:金本位制の終わり
ブロック経済のために行われた度重なる通貨の切り下げによって、多くの国で採用されていた「通貨の価値を金の重さで換算する」金本位制が終わりを迎えました。
金1g=100円だったのを金1g=500円にするのが通貨の切り下げです。理屈上は、金1g=10,000,000円みたいに上限なく通貨の切り下げができますが、実際はそうはなりません。
金1g=10,000,000円ってことは、逆に考えれば、1円には金0,0000001gの価値しかないわけです。
こうなると、中には「通貨はもはや無価値に等しい。通貨はオワコン」って思う人も現れます。こうして通貨の信用性が失われると、みな通貨を使わなくなり、お金はゴミ同然になってしまいます。(この現象をハイパーインフレと言います。)
何が言いたいかというと、「通貨の切り下げには限界がある」ってことです。この限界は、各国が保有する金の量によって決まります。
例えば、金1g=1,000円が通貨の信用を保てる切り下げの限界だとすれば、それ以上に通貨を切り下げるには、金1g=1,000円のレートで国が通貨を発行しまくるしかありません。そして、発行できる通貨の量は国の持つ金の保有量によって制限されます。
(200gの金しか持っていない国は200,000円(200g×1,000円)までしか通貨を発行できない)
当時は、A国が通貨を切り下げて輸出で優位に立とうとすれば、B国が負けじと以上に通貨を切り下げる・・・という通貨安競争が激化しており、そんな中、国の保有する金の量に限界を感じたイギリスが、金本位制からの離脱を宣言します。
金本位制やめて、国で通貨(ポンド)の管理するわ。
「大国イギリスが管理する通貨」って言えば、みんな信用して使ってくれるでしょ。
これで、金の量とか国外流出のことを気にせずに通貨を発行しまくれる・・・!!
イギリスの金本位制からの離脱をきっかけに、主要国でも次々と離脱が続き、1937年のフランスを最後に全ての国が金本位制から離脱してしまいました。
こうして世の中は、お金の価値を「金で保障する時代」から「国が保障する時代」へと変わっていくことになります。
第二次世界大戦、そしてGATTへ・・・
ブロック経済を発端とした軍国主義の登場は、第二次世界大戦を招くことになります。
ヨーロッパでは、イタリア・ドイツが侵略戦争を開始。
日本もアジア一帯の侵略を目指す「大東亜共栄圏」の理念を掲げ、中国や東南アジアへの侵略を開始します。
第二次世界大戦が終わると、世界は「戦争が起こった原因はブロック経済にある」と判断し、1947年には世界の新しい貿易のあり方を定めた「貿易と関税に関する一般協定(GATT)」が制定され、ブロック経済は役目を終えることになりました。
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